2017/11/01
廃止された「家督相続」を主張する相続人がいるんだけど!どうしたらいいの!?
家督相続(かとくそうぞく)という言葉をご存知でしょうか?
相続の話し合いの時に、廃止されたはずの「家督相続」を主張してくる相続人がいるんですが・・
というご相談を頂いたので、詳しくお話ししていこうと思います。
家督相続とは?
家督相続は、明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に施行されていた「旧民法による遺産相続方法」です。
「家督相続」制度では、被相続人である※戸主(こしゅ)が亡くなったり、戸籍を失った場合、次の戸主(長男、稀に長女)が一人で全ての遺産を継承・相続するのが原則とされていました。
※戸主(こしゅ)とは一家の長を指します。
家督を相続する = その家の戸主たる地位や財産を受け継ぐため、強い権限を持つ事になります。
次の「戸主」だけが全ての遺産を相続する事から、遺産を分割する手間が省けたり、手続きが簡略化できるなどメリットはありますが、
生まれた順番だけで相続権を判断されるのは、当然不公平であり、他の兄弟姉妹たちからの反発もあったと思います。
このような、考え方が時代にそぐわなくなったため、家督相続は廃止されましたが、現在でも、
家督相続又はそれに類する主張をする相続人(長男)がいるなど問題が発生する事があります。
そこで今回は、家督相続の特徴や現在の相続との比較で、相続人には誰がなれるのか、現在でもあり得る家督相続の「相続登記」手続きなどについて解説いたします。
旧民法には2つの相続があった
旧民法での「相続」は、「家督相続」と「遺産相続」の2つがありました。
1、家督相続
家督相続開始の原因は、被相続人の死亡だけでは無く、存命中(生前相続)であっても開始される事が大きな特徴になります。
家督相続開始の原因は以下の理由によります。
- 戸主の死亡
- 戸主の隠居(戸主は満60歳になると隠居できる・女戸主には年齢制限なし)
- 戸主が婚姻又は養子縁組の取り消しで家を去ったとき(去家)
- 女戸主の※入夫婚姻又は入夫の離婚
※入夫婚姻(にゅうふこんいん)は、旧民法規定のもと、夫が女戸主(にょこしゅ)である妻の家に入る婚姻
家督相続は、家督相続人の1人が前戸主の「一身専属権を除く一切の権利義務(戸主たる地位)」を「単独で相続」します。
2、遺産相続
(戸主以外の)家族の死亡によってのみ開始されます。
旧民法での遺産相続は、戸主以外の家族が死亡した場合や失踪宣告によって開始します。
家督相続では「戸主である身分関係」も相続しますが、遺産相続は「財産のみ」です。
しかし、この時代は、戸主以外の家族が財産を所有する事は稀であったため、被相続人に財産と呼べる財産が無く相続が行われない事の方が多かったようです。
家督相続とゆう制度が作られた理由
先祖代々担ってきた財産や土地・家名などを次の世代に受け継いでいく事は、一族(家族)にとってとても大切な事です。
そのため「家督相続」= その家の長子が家を継ぐ行為は、昔から日本で重要視されてきました。
特に、旧家や名家と言われる一族や、代々商売を行ってきた商家は、一般の家よりもそれを重んじる傾向があります。
家を絶やすとゆう事は、決してあってはならいと考えられていたのです。
先祖代々の土地を守り、その家を守る為には財産などの分散を防ぐ必要があります。
そこで明治31年(旧民法)に江戸時代に発達した、武士階級の家父長制的な家族制度を基にした「家制度」(いえせいど)が規定されました。
家制度(いえせいど)とは、1898年(明治31年)に制定された民法において規定された日本の家族制度であり、親族関係を有する者のうち更に狭い範囲の者を、戸主(こしゅ)と家族として一つの家に属させ、戸主に家の統率権限を与えていた制度である。江戸時代に発達した、武士階級の家父長制的な家族制度を基にしている。
女性参政権の施行と日本国憲法の制定に合わせて、1947年(昭和22年)には民法が大規模に改正され、親族編・相続編が根本的に変更された為に廃止された。参照元:ウィキペディア「家制度」
この家制度によって、戸主となった者1人にその家の財産の全て承継させる事で、財産の分散を防ぎ家を存続させる目的で作られたのが家督相続制度です。
家督相続人の優先順位
家督相続における相続人は長男が相続人となる事が大原則ですが、長男が居なかった場合でも誰を相続人とするのかが明確に決められています。
第1順位・法定(推定)家督相続人
被相続人(前戸主)の直系卑属、複数いる場合は、被相続人と親等か近い者の順になります。
男子・年長・嫡出子が優先、また、女子の嫡出子より男子の認知された非嫡出子が優先。
※嫡出子・・・婚姻関係にある間に生まれた子
※非嫡出子・・そうでない子
第2順位・指定家督相続人
被相続人(前戸主)が生前(または遺言)によって指定した者が相続人となります。
第3順位・第一種選定家督相続人
法定・指定家督相続人のどちらも居ない場合に、被相続人(前戸主)の父母や親族会が同籍の家族の中から選定した者が相続人となります。
第4順位・第二種法定(推定)家督相続人
被相続人(前戸主)の直系尊属(父母や祖父母、曾祖父母等)
同一戸籍内の家族で直系卑属で、第1順位の法定(推定)家督相続人居ない場合に相続人となります。
第5順位・第二選定家督相続人
被相続人(前戸主)の親族会が親族・分家の戸主、本家・分家の家族もしくは他人の中から選定した者が相続人となります。
※他人は、(正当な事由による裁判所の許可が必要)
遺産相続
家督相続制度が行なわれていた時代(旧民法)の「遺産相続」と(現代)の「遺産相続」があります。
旧民法と比較して大きな違いは、配偶者の相続順位です。
旧民法では、被相続人の配偶者の相続順位は第二順位でしたが、現在の民法では配偶者は常に相続人となります。
相続人(旧民法)の優先順位
第1順位・被相続人(亡くなった方)の直系卑属
子(1親等)や孫(2親等)など親等が近いものが優先されます。
複数の場合は、共同で相続し、実子や養子、嫡出子、非嫡出子、年齢、性別などの別はなく相続人となります。
第2順位・配偶者
直系卑属である子(1親等)や孫(2親等)が居ない時は配偶者が相続人となります。
※現在の相続では配偶者は常に相続人となります。
第3順位・直系尊属
直系卑属(子、孫)や配偶者が不在の時は、被相続人の父母や祖父母が相続人となります。
第4順位・戸主
第1順位から第3順位までの相続人が不在の時は、戸主が単独相続人となります。
相続人(現在)の優先順位
配偶者
被相続人(亡くなった方)の配偶者は常に相続人となります。
第1順位・直系卑属
被相続人(亡くなった方)の子供。
第2順位・直系尊属
被相続人(亡くなった方の父母や祖父母、曾祖父母等)。
第3順位・兄弟姉妹
被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹。
他の相続人(代襲相続)現在の民法での代襲相続はこちら>>
現在の相続人に関する詳細は、「法定相続人」とは?相続権利者とその割合についての知識を深めよう。で詳しく説明しています。
家督相続の登記
相続で、家や土地などの不動産を相続する時は、相続登記を行い自分の名義に変更しますが、必ず行わなければならない義務ではないため、放置される事があります。
過去に相続登記をせずに、そのままになっている不動産などがある場合、相続の開始時期により「家督相続での登記」になる場合があります。
相続の発生時期で適用法令が異なります
家督相続は昭和22年5月3日以降に廃止された制度であるため、現在は関係ないと考えてしまいますが、相続が発生した時期によっては、家督相続が適応される事になります。
もし、昭和22年5月2日以前の相続登記が完了していない時は、家督相続制度が適応された相続登記をすることになります。
明治31年7月16日~昭和22年5月2日以前
旧民法(家督相続制度)が適用されます。
登記は、「家督相続」を登記原因とします。
昭和22年5月3日~昭和22年12月31日以前
日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(※応急措置法)が適用されます。
家督相続は認められないのため、登記は、「死亡相続」を登記原因とします。
※応急措置法
「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」は、明治時代の旧民法で確立した家制度(いえせいど)が新憲法の精神に反するため、昭和22年5月3日施行の日本国憲法施行に伴い、応急措置を講ずる目的で制定されたもので、家督相続に関する規定や戸主、家族その他の「家」に関する規定を適用せず、二つの相続形態(家督相続・遺産相続)を一本化し、遺産相続(死亡相続のみ)の規定に従うものとしました。
長い間、相続登記が行なわれていなかったら、過去に遡って登記を手続きを行う事もあります。
その場合、相続開始の日付によって、登記原因が「家督相続か遺産相続」なのか混乱してしまうかも知れません。
不安がある時は、勘違いを防ぐためにも専門家に相談した方が良いでしょう。
家督相続の登記書類
家督相続の登記を行う場合、現在と違い、相続を証明する添付書類は、戸籍のみで行なえます。
旧民法では、戸主が誰に家督を継がせるかを決めることができ、家督を継がせると必ず戸籍に、誰が誰に家督相続したのかを記載するので、相続を証明する事ができます。
家督相続として、新たな戸主の名義に変更すれば良いので手続き自体は簡単です。
また、家督相続で相続できるのは、必ず一人ですから、遺産分割協議書も必要ありません。
2017年5月から開始された「法定相続情報証明制度」により相続登記など相続手続きに必要な書類を簡略化できます。
詳細は以下をご覧ください。
長男が家督相続を主張している場合
現在は、廃止された「家督相続」ですが、遺産分割協議の場で、相続人が長男である事を理由に家督相続、又は、それに類する事を主張するといった事例は案外多いです。
例えば、相続が開始され、子供4人で分け合うはずが、自分は長男だからと主張を始めると、それだけで、揉める原因になります。
もし、長男であることを理由に、家督相続、又は、それに類する事を主張してきたら、相手の言っている事をすぐに否定するのではなく、長男が主張する根拠を示してもらうと良いでしょう。
例えば被相続人の生前、長年に渡り
- 長男が献身的に被相続人の看護をしたり
- 面倒を見て支えてきたり
- 事業などを通して被相続人の財産や遺産が維持されたり
増加した事が「特別の寄与分」として認められる範囲なのかを確認します。
もし長男の主張に「特別の寄与分」などの要素が見当たらない場合は、「家督相続制度」は旧民法での制度です。
現在では殆ど機能しなくなっている事を伝えた上で、新民法で定められた法定相続人と相続分の話を伝えてみましょう。
家督相続制度の意味と目的を伝える事も大切
遺産相続が発生すると、それぞれの相続人が、現状や将来を考え、自己の主張を通そうとします。
もし長男が自分の家族や自身の現状や将来を考え、自己の都合だけで家督相続やそれに類する主張をしているようであれば、以下の様に家督相続を認められた戸主の心構えや責任などを説明するのも一つの方法です。
家督相続が認められた戸主は、金銭的な部分だけでなく、家の格式や名誉など一切を引き継ぎ、自身の家族だけでなく、一族の長として引き継いだ財産、一族の家名を守る責任もあります。
家督を相続する戸主は財産と、大きな責任も相続することを伝えましょう。
更に、長男が全ての遺産を持って行ってしまうので、今後自分たちが困ったら対応してくれるのかなど、しっかりとを詰めていき、念書を作成するなどの話をすれば気が変わるかも知れません。
最悪は遺産分割調停で争う姿勢を示す
話し合いで解決せず、遺産分割協議が先に進まない時は、最終的な手段として、調停や審判、あるいは裁判で結果をだすとゆう事を伝えるのも一つの方法です。
調停や審判、裁判のデメリットを伝える
- 場合によっては弁護士を雇う必要もあり、費用がかかり、決着までには時間が掛かる。
- 調停から審判、次に裁判へと進んでいくと更に費用と時間がかかってしまう。
- 審判、裁判となった場合でも、根拠の無い主張が認められる確率は低い事を伝えます。
もし、勝手に遺産を全て、相続してしまう可能性がある場合は、「遺留分減殺請求」という方法を説明し、最低限の遺産を取りもどすことができる事も付け加えておくと良いでしょう。
これだけ、言っても理解を示さない時は、実際に「遺産分割調停」へと進む以外、他に方法がないかも知れません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、家督相続又は、それに類する主張をする相続人が居た場合の対象方法などを説明させて頂きました。
家督を相続して家を守る事は、古くは、物質的な面と精神面の両方が重視された制度であったと思います。
しかし、時代と共に、日本人の意識や生活スタイルも変化し、それに伴い民法も変りました。
自己主張も大切ですが、旧民法から新民法へと何故変わらければならなかったのを理解した上で遺産分割の話し合いを行えば、お互い納得のいく話し合いができるのではないでしょうか。
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