2017/09/11
法定相続人への最低限の保障「遺留分」の意味と「遺留分減殺請求」行使の方法
遺産相続が始まると、「法定相続人」となる方達で、被相続人(ひそうぞくにん)が残した、金銭的な価値のあるもや権利、義務を故人の遺産として相続します。
被相続人の死亡の後、「法定相続人」は、「遺産分割協議」(話し合い)を行い、それぞれの相続割合の範囲で自由に「遺産」を分け、相続することができます。
しかし、「遺産」は元々、被相続人(ひそうぞくにん)の持ちものであることから、生前に「遺言書」を作成しておき、財産の分割方法や割合などを予め指定する場合もあります。
法的に正式な遺言書であれば、被相続人(故人)の最後の「意思」として、その内容が、「法定相続人」に不利なものであっても最優先されます。
「遺言書」による「財産分割の指定」は珍しい事ではないため、この様な事態が発生した場合を考慮し、法定相続人には最低限の保障として「遺留分」が与えられています。
法定相続人でも遺産を相続できない!?「遺留分」て何?
例えば、「遺言書」により、「法定相続人」以外の第三者(他人)に遺産のほとんどを相続させる指定や、他の相続人に、法定相続分よりも極端に多くの財産を相続させるなどの偏った指定をしたとします。
相続人は「法定相続分」を相続できなくなるばかりでなく、心情的にもダメージを受けてしまう事が想像されます。
この様なケースが発生した時に、「法定相続人」には、自己に分配されるはずの財産の一定割合を最低限度確保できるよう法律によって保証されています。
これを「遺留分」(いりゅうぶん)と言い、遺留分が保障されている人を「遺留分権利者」(いりゅうぶんけんりしゃ)といいます。
遺留分(いりゅうぶん)が保証されている「法定相続人」
- 配偶者
- 子供(第一順位)
- 父母・祖父母(第二順位)
- 養子縁組によって養子となった者
- 代襲相続による相続人
(被代襲者に遺留分がある場合)
遺留分(いりゅうぶん)権がない相続人
第三順位の相続人である兄弟姉妹には遺留分(いりゅうぶん)権はありません。
民法第千二十八条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
※被相続人の子供が相続放棄をした時はその子供、被相続人から見て孫に「遺留分」はありません。
兄弟姉妹に遺留分権が無い理由
被相続人の生前に生計を共にしていた、配偶者や子供、被相続人の両親である父母に比べて、兄弟姉妹の相続順位は3番目とされ、相続関係が一番遠いからだと言われています。
被相続人と父母が同じであれば、血縁関係になりますが、遺産相続の考え方からすると、順位が低く関係性が薄い兄弟姉妹の利益よりも被相続人の財産処分の自由という意思が尊重されることになっています。
遺留分権は、被相続人でも「排除」する事が出来ない権利であるため、兄弟姉妹や、更にその子供たちが「代襲相続」によって行使するようになってしまうと被相続人の最後の遺志(意思)として、財産の分割を指定したとしても意味がなくなってしまうためと言われています。
遺留分の割合は
相続人 |
遺留分権利者/法定相続分 | 遺留分割合 |
配偶者のみ | 配偶者/全部 | 1/2 |
配偶者と子供 | 配偶者/1/2
子供/1/2 |
1/4
1/4 |
配偶者と両親や祖父母 | 配偶者/2/3
両親や祖父母/1/3 |
1/3
1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者/3/4
兄弟姉妹/1/4 |
1/2
0 |
子供のみ | 子供/全部 | 1/2 |
両親や祖父母のみ | 両親や祖父母/全部 | 1/3 |
相続人となる子供や父母が複数人いる時は人数で等分します。
遺留分が発生した場合の各相続割合の例
配偶者と長男、長女が相続人の場合
被相続人の父母と配偶者が相続人の場合
配偶者が亡くなっている時は、父母がそれぞれ1/6ずつ相続します。
例:被相続人の配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
兄弟姉妹には「遺留分」はありません。
遺留分の算定に必要な財産
遺留分を算定するのに必要となる基礎財産は、被相続人が死亡時に持っていた財産(価額)と生前に贈与した財産(価額)から負債の全額差し引いた額で計算をします。
相続財産 + 生前の贈与財産 - 債 務
遺留分の対象となる財産
被相続人の死亡をもって相続が開始されることから、被相続人から生前に贈与(特別受益)された財産は対象外と考えてしまうかもしれませんが、被相続人から生前に贈与(特別受益)を受けていた場合も「遺留分」の対象になります。
- 相続開始から遡って1年以内に受けた贈与(民法第1030条:前段)
- 遺留分権利者(※推定定相続人)に損害を与えると知ったうえで行った贈与(民法第1030条:後段)
- 相続人への特別な贈与(特別受益にあたる場合)
※推定相続人とは、被相続人が亡くなった時に「法定相続人」となる方です。
遺留分減殺請求手続きの前にやっておく事
遺留分減殺手続きの前に、相続人が誰なのか、相続できる財産がどの位あるのかを調べ、実際に遺留分が発生しているのか、発生している時はどの位発生しているのかをを調べなければなりません。
1、相続人が誰なのかを特定する
2、遺留分の対象金額を計算する
遺留分が発生した時の請求方法は?
遺留分の侵害が発生したら「遺留分権者」は、「遺留分」を侵害している他の相続人や受遺者に対して行います。
これを「遺留分減殺請求」(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)と言います。
「遺留分減殺請求」を行うためには、実際にどの程度、「遺留分の侵害」が起こっているのかを確定しておかなければなりません。
遺言書にはっきりと書かれていた場合は、まだ良いですが、被相続人の死亡から1年間遡って誰にどのくらい贈与していたのかを調べることは大変です。
しかし、被相続人が生前贈与を行っていたのであれば、相続人の誰にどのくらい贈与したのかも調べておく必要があります。
財産調査が済んで、遺留分があると確定したらいよいよ、「遺留分減殺請求」を行うわけですが、「遺留分減殺請求」は法律上特別な手順や方式はありません。
自分より多くの遺産を受け取った方に「遺留分減殺請求」を行いたい時は以下の2つの方法のいずれかで行うのが一般的です。
1、遺産を多くもらった相手に直接交渉を行う
2、裁判(調停)を起こして争う
1、2、どの方法で行うかですが、1の「遺産を多くもらった相手に直接交渉を行う」場合も、2の「裁判(調停)を起こして争う」方法も殆どの場合、法律の専門家が必要になります。
その為、仮に「遺留分」があったとしても、侵害された金額や、それにかかる時間を考え「遺留分減殺請求」を行わない場合もあります。
侵害されている財産の内容によって「遺留分減殺請求」を行うメリットがある時は、弁護士など専門家に相談する事をお勧めします。
遺留分減殺請求に必要な費用
上記で説明させて頂いたように「遺留分減殺請求」を行う場合は、遺産を多くもらった相手に直接交渉するか、裁判(調停)で争う方法が一般的です。
費用面で安く済むのは、相手との直接交渉ですが、交渉がうまくいかず、止む終えず裁判(調停)になる場合は、弁護士への依頼が必要になる事が予想されます。その場合は着手金や成功報酬などが発生します。
成功報酬は、請求する価額によって変動しますので、依頼される時は確認して下さい。
遺留分を侵害されている金額にもよりますが、「遺留分減殺請求」は弁護士などの法律のプロに依頼された方が良い結果になる事が多いです。
遺留分減殺請求ができる期限
遺留分減殺請求ができる期間について民法で以下のように定められています。
【民法 第1042条】
減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。
「遺留分減殺請求」2つの期限
1、時効による消滅
遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年で、時効によって消滅する。
2、除斥(じょせき)期間による消滅
遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈があったことを知らなくても、相続開始時から10年経過で消滅する。
遺留分を放棄したい時
法律上「遺留分」が保障されている相続人ですが、何らかの事情によって「遺留分」を放棄する場合、「相続開始前」と、「相続開始後」では手続き方法が異なります。
相続開始前
被相続人が存命中)の遺留分放棄はお住まいの地域の家庭裁判所の許可が必要
相続開始後
被相続人の死亡後)の遺留分放棄は家庭裁判所の許可は「不要」、自由にできます
被相続人が存命中の遺留分放棄に家庭裁判所の許可が必要な理由
遺留分権利者が、自己の遺留分を放棄する時にはそれなりの理由があると考えられます。
放棄の理由が、本人(遺留分権利者)の意思によるものなのか?放棄することで、本人(遺留分権利者)にメリットがあるのか?
他の相続人や存命中の被相続人から強要されていないかなど、慎重に調べた上で「遺留分放棄」を許可します。
裁判所:遺留分放棄の許可
1. 概要
遺留分とは,一定の相続人のために,相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の一定の割合のことをいいます。この遺留分を侵害した贈与や遺贈などの無償の処分は,法律上当然に無効となるわけではありませんが,遺留分権利者が減殺請求を行った場合に,その遺留分を侵害する限度で効力を失うことになります。
遺留分を有する相続人は,相続の開始前(被相続人の生存中)に,家庭裁判所の許可を得て,あらかじめ遺留分を放棄することができます。※ 遺留分減殺請求とは,遺留分を侵害された者が,贈与又は遺贈を受けた者に対し,相続財産に属する不動産や金銭などの返還を請求することをいいます。
2. 申立人
遺留分を有する相続人
3. 申立ての時期
相続開始前(被相続人の生存中)
4. 申立先
被相続人の住所地の家庭裁判所
管轄裁判所を調べたい方はこちら5. 申立てに必要な費用
収入印紙800円分
連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお,各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)
6. 申立てに必要な書類(1) 申立書(7の書式及び記載例をご利用ください。)
(2) 標準的な申立添付書類
被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
※ 同じ書類は1通で足ります。※ 審理のために必要な場合は,追加書類の提出をお願いすることがあります。
7. 申立書の書式及び記載例
遺留分の放棄と相続放棄の違い
相続放棄をすると、その方は最初から相続人でなかった事になりますが、遺留分放棄を行ってもその方の相続権がなくなることはありません。
・相続放棄が認めらるとその方は相続権を失う
・遺留分放棄が認められてもその方の相続権は残る
まとめ
いかがでしたでしょうか?
遺留分(いりゅうぶん)、遺留分権(いりゅうぶんけん)、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)についてポイントを説明させて頂きました。
遺留分(いりゅうぶん)は「法定相続人」にとって最低限の相続財産を相続できるように配慮されたものですが、遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)は、書類上の手続きとゆうよりも、相手との交渉がポイントとなります。
遺留分を侵害されている可能性がある時は、早めに弁護士などの法律の専門家にご相談されてはいかがでしょうか?
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